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2008年10月

1人リアルタイム「はやとくん」で文字通訳

速記者1人だけのリアルタイム「はやとくん」で,文字通訳にチャレンジしました。

「はやとくん」で情報保障を行うときは,速記と校正の2人組で行うのですが,今回は平日で人手がなかったのと,1人リアルタイムでも結構きれいに出ているので,小さいパソコンの画面に文字を表示するだけならと,思い切って1人でやらせてもらいました。

今回の依頼は、聴覚障害者の方が講師で,1日目に講演を2時間行い,2日目に質問コーナーの時間が30分あるということで,その質問コーナーの30分の情報保障をしてほしいということでした。

◎準備

聴覚障害者の方は,情報保障に慣れた方で,事前に講演に出てくる固有名詞をすべて抜き出した資料を事前に送ってくれました。

講演の前日に,私物のWindows Vistaのパソコンに,いつも「はやとくん」を使っている職場のパソコンの環境をそっくり移しました。
ところが,Vistaが難解な動作をするので,ここでとても苦労しました。

(参考 Vistaの困った点)

普通は,辞書や,はやとくんの自分の環境は,コピーで簡単に移せるのですが,Vistaは勝手にフォルダを作って保存して,そちらのものを使うのです。
例えば,「はやとくん」の環境を移すなら,C:\Program Files\Hayato\StenHlWに,Stenhlw.iniというファイルをコピーすればよいだけですが,Vistaでは勝手にC:\Users\****(ユーザー名)\AppData\Local\VirtualStore\Program Files\Hayato\StenHlWというフォルダができていて,そちらのStenhlw.iniを読み込んでくるのです。
辞書も同様で,勝手にフォルダを作ってそちらにコピーして,そちらのものを使っているようです。
辞書を書き換えると,C:\Users\****\AppData\Local\VirtualStore\Program Files\Aisoft\WXG\DICの辞書が書き換わりますが,元辞書のC:\Program Files\Aisoft\WXG\DICの中のファイルは書き換わらないので,分からず使っている人は混乱します。
はやとくんで作成された記録も,VirtualStoreのほうにできているので,探すのは困難で,普通の人は二度と見つけられないでしょう。

「はやとくん」を使っている方で新しいパソコンを買おうとしている方には,Vistaはお勧めしません。

機械の設定を終え,ステンチュラを職場から持ち帰り,なんとか準備はできたのでした。

◎1日目
翌日は聴覚障害者の方の講演の日で,ぶっつけ本番はVistaパソコンに不安もあったので,講演を聴きがてら練習をさせてもらうつもりでした。
ところが急遽,講師紹介の部分を情報保障してほしいという要望があり,一緒に聴覚障害者の方と壇上に上がり,いきなり本番となりました。

今回の文字通訳は,リアルタイム「はやとくん」の文字を拡大して表示するという方法で行いました。ステンチュラの組み立てと,パソコンを起動してケーブルをつなぐだけの簡単なセッティングだったので,5分ほどですぐ準備もできました。
講師紹介も,5分ぐらいの短い時間でしたが,リハーサルもできて速記の宣伝もしてくださって,ラッキーでした。

その後,1回目講演1時間,休憩1時間,2回目講演1時間を,講演を楽しみながら,練習もばっちりしたのでした。
会場の後ろのほうで速記をしていると,興味を持ってのぞきこんでくれる人もいて,これだと聴覚障害者とのコミュニケーションがスムーズにできますねと,感心してくれました。
手話は,助詞がない結構アバウトな言語なので,誤解することがよくあったり,専門的な用語を伝えるときに特に正確に伝えるのは難しいというようなことを言われていました。

◎2日目
いよいよ質問コーナーの日で,本番です。聴覚障害者の方と一緒に壇上に上がり,司会者の方の紹介から速記を始めました。
速記の宣伝もしっかりしてくださり,質疑応答の間に,参加者の方は自由に壇上に上がって文字通訳の様子を見てくださいと勧めてもくれました。
司会者の方の声に押されて,たくさんの人が見てくれました。

情報保障の経験はたくさんある私ですが,いつも校正役だったので,最初は速記をする手も震えて,緊張しました。音に集中して正確に打つのに精一杯で,表示される字のほうまで最初チェックしている余裕がありませんでした。

数分して,画面を見ると大体きれいに出ているようなのでちょっと安心して,質疑応答に入ると質問と答えの間に時間も少しできるので,チェックする余裕も出てきました。

誤ったものを追加して打ち直したり,発音が悪くて聞き取れないときは,括弧して聞き取れないと打ってみたり,質問者とそのそばの人の私語のような会話も括弧して打ってみました。

発言者の表示も,「>司会/>」,「>講師/>」,「>質問者/>」こんな感じで辞書登録しておくと,「>」で改行が必ず入ってくれるので,読みやすくてよいです。 

何より気持ちよいのが,校正者を入れてないので当然ですが,発言の数秒以内に全く遅れなく文字がパソコンの画面に表示でき,質問者が発言し終わると,すぐさま聴覚障害者の方が回答できるスムーズさがとてもよかったです。

ちなみに,1人リアルタイムで文字通訳の精度はどれぐらいだろうと,正解率を調べてみました。
間違っている字を拾い出し,句読点を除いた総字数で割ってみると,2.4%と出ました。
97%の正解率ぐらいでは出していたのかなと思います。

主な間違いは以下のとおりです。

高遠 → 講演
進行 → 信仰
終身 → 修身
新婦 → 神父
頂角 → 聴覚
深厚 → 信仰
空かし 赤し 明石 → あかし
ツー印絡 → 通院から
木の芽 → この目
託さん → たくさん
明示  → 明治
対象  → 大正
地下ころ→ 近頃
独身  → 読唇
有   → いう
感じ  → 漢字
威時示 → じいじ
意外  → 以外
し艶  → 支援
結核  → 欠格
古都  → こと
出ざびり帝都 出ざびり底出 出ざびり底図 出さブル座 出さぶるど → デサビリティ関係
余戸 → 用語
鉛 → なまり
開設 → 解説
マスカラ → ますから

あと人名の誤変換と,略語の打ち間違いが多少ありました。

緊張して略語を打てず誤変換したもの,日頃使わない語も誤変換が多いです。人名は、事前に辞書登録してなかったので、ほとんど誤変換しました。

あと、誤変換しやすい「古都」や「マスカラ」は辞書から単語を抜いているはずなのに,復活しているのはVistaの呪いか???

反省点としては,言い直しや言いよどみなどもっと整理して打てればよかった。画面をもっと見て,打ち間違いや,変換できてない言葉を言い換えて打ち直しができればよかった。言葉が早くなるとこまめに送る時間がなくなり二,三行まとめてどんと送ったところがあった,などです。

いろいろありましたが,聴覚障害者の方も喜んでくださり,私も大収穫の,うれしい1人リアルタイム「はやとくん」の文字通訳初挑戦となりました。

NHK ろうを生きる難聴を生きる

リンク: NHK ろうを生きる難聴を生きる.

10月11日に京都大学で開催された字幕シンポですが、
その様子を、NHKが10月19日午後7:30に放送予定ですので、ぜひごらんください。

「はやとくん」は、今年はワードワープ社のメンバーだけで講演1と講演3の字幕付けを行いました。


◇プログラム
13:30 開会あいさつ 兼子次生、京都大学身体障害学生相談室
13:45 講演1「中途失聴・難聴者のニーズと情報コミュニケーション支援」
太田晴康(静岡福祉大学)
14:30 講演2「大学における聴覚障害学生への情報保障の取り組み」金澤貴之(群馬大学)
15:15 (休憩)
15:30 講演3「ノーマライゼーションへのチャレンジ
~集団と学力の保障。学級の実践から~」
高井小織(京都市立二条中学校)
16:00 講演4「音声認識技術の授業への適用」     河原達也(京都大学)
16:30 討論 司会 兼子次生
17:15 閉会あいさつ 山口武彦
17:30 交流会

裁判員制度:模擬裁判 選任手続きに初の聴覚障害者/京都

リンク: 裁判員制度:模擬裁判 選任手続きに初の聴覚障害者 「通訳確保が課題」指摘 /京都 - 毎日jp(毎日新聞).

(引用) 京都地裁での裁判員制度の第12回模擬裁判が29日、始まった。裁判員候補者を面接し抽選する裁判員選任手続きに、初めて聴覚障害者の男性(59)=西京区=が参加。地裁は手話通訳者をつけたが、男性は「聞き慣れない言葉もあり、半分くらいしか理解できなかった。法律のことを理解した通訳確保も課題」と指摘した。

選任手続で半分くらいしか理解できなかったとなると,不安が高まり辞退ということも多くなるのではないかと感じました。かと言って,手話通訳者に法律の理解まで求めるのは,負担が大き過ぎるのではないかと思います。

裁判所速記官が,日弁連のシンポジウムや大会で字幕付けを行うとき,大抵並行して手話も付いていますが,そこでこんなことがあります。

弁護士さんの集会だけあって,法律はもちろん,幅広い分野の専門用語が飛び交いますが,手話通訳者の方が,分からない言葉を字幕で確認するのです。日本語は,表意文字なので,耳で聞いて分からなくても,文字を見れば何となく理解できます。

障害者だけでなく,手話通訳者のお役にも立っていることが分かり,字幕を出すのにもますます張り合いが出たのでした。

速記官がそこで字幕を付けることができれば,聴覚障害者の理解はどのくらい上がり,手話通訳者の負担はどれぐらい軽減できるだろうと思います。

(引用続き) 最高裁は、聴覚障害のある裁判員には手話や要約筆記を利用してもらう方針。今回は「選任手続きだけを検証の対象にした」(地裁)として、男性は事件概要の説明を受けて質問票に記入し、裁判官との面接まで体験。終了後に記者会見に応じ、「本番で裁判員に選ばれたら、他の人と同様に理解し、公平な裁判ができるか心配。障害に応じた配慮をしてほしい」と要望した。

話すスピードで逐語で通訳できる手話はともかく,要約筆記を利用してもらうという最高裁の方針に疑問です。

要約筆記は,手書き要約筆記では1分間に書ける文字数は約50文字,パソコン要約筆記では120文字と言われています。(機械速記は400文字)

要約筆記者の書く(打つ)スピードに合わせて,ゆっくり質問して,ゆっくり答えることにするのでしょうか。それとも,要約して通訳することを認めるのでしょうか。

要約することは、読みやすさを優先させたいときや、テレビの字幕など限られたスペースに納めて表示しなければならない場合など、そちらのほうが適している場合もありますが、裁判に適しているとは到底思えません。

外国語の法廷通訳人の場合も、翻訳が不正確だったので裁判をやり直してほしいというケースがあるので、言葉を省略することは許されず忠実に翻訳されることが求めらます。

聴覚に障害のある人で,手話が分かる人は2割に過ぎないと聞きます。残りの8割の人のために、早急に要約筆記についての研究や模擬裁判での実験が必要です。

技術的には、速記官が「はやとくん」で文字通訳ができれば,話す速度で逐語で文字化できるので解決ですが,今の制度のままでは選任手続や評議に速記官が立ち会うことは不可能です。

今年3月、最高裁に、速記官の業務として新たに聴覚障害者の情報保障を追加することを提案したところ、手話通訳を予定しているという否定的な回答でした。

(参考)

『法廷通訳ハンドブック実践編』

被告人や証人に対し話されたこと又は被告人や証人が話したことを忠実に通訳してください。

(中略)それぞれの質問のニュアンスなどに十分注意して、できる限り言葉に忠実に通訳してください

「法廷通訳人四訓」の中の第一訓

第一訓は、通訳の誠実性・正確性の保持である。

法廷通訳人は、良心に従って誠実に、発言者の発言のすべてを有りのまま正確に通訳しなければならない。したがって、故意に偽りの通訳をすると処罰されることがある(刑法171 条・虚偽通訳罪)。法廷通訳人は、発言内容の一部を省略することは許されず、発言者の話の構文や言葉遣いを忠実に通訳する必要がある

(別記事)

リンク: 障害者裁判員 課題見えた  : 京都 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞).

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