裁判員制度

安原元家裁所長の講演録

「裁判所速記官制度を守る会」の大阪支部長に,石松弁護士に代わって,安原弁護士がこのたびなられたとのことです。http://www3.sokkikan.coco.jp/article/133764772.html

石松竹雄弁護士(元司法研修所教官,大阪高裁部総括判事などを歴任)もすばらしい方ですが,安原浩弁護士も日本裁判官ネットワークの設立者のお一人で,元松山家裁所長というすごい方で,このような立派な方々に速記官制度を応援していただき本当にありがたい限りです。

御就任を記念して,秘蔵の安原弁護士の講演の速記録を公表させていただきます。
2年前の「はやとくんフォーラム2007」で,まだ家裁所長御在職中の折に講演いただいたもので,御本人には公表の許可をいただいていたものです。

松山家庭裁判所の所長というポストにおります安原と申します。
今家庭裁判所ですけれども,40年の裁判官生活の中,ほとんど刑事裁判を担当しておりました。特色としてはボランティア判決を最初にしたとか,最高裁で初めて違法収集証拠を排除して無罪にした事件の原審を担当したと,そういうようなところが私の自慢の話であります。

日本裁判官ネットワークについては,御存じの方もあるかと思いますけれども,現職の裁判官だけで組織した団体ということで,日本では歴史上始まって以来の出来事と言いますか,1999年に設立したものでありますが,メンバー約20名という弱小だったのであります。

目標は大きく掲げておりまして,開かれた司法,あるいは司法機能の強化,そういうことを目標にしておりますが,要するに最高裁の枠内の考えではなくて,自由に自分たちの頭で考える裁判官,そういった裁判官をお互いに支援し合おうという団体であります。

特に最高裁と対決しようという姿勢ではないんですけれども,とかくそういう団体ではないかというふうに見られております。
本日も所長という名前を使いましたけれども,資格としては裁判官個人,私安原という裁判官個人の立場で参っております。これから申し上げる意見につきましても,全く私個人の意見ということでお聞きください。

裁判官ネットワークの間でも,速記官の問題については各種の意見があるということは,事実あります。まず私の立場の前提として,裁判員制度に非常に賛成しているという立場から話を始めたいと思います。
裁判員制度については,最高裁,法務省,弁護士会を挙げて推進しているということになっておりますけれども,実際にはなかなか新しい制度についていけないという意識の方も多いのです。

ただ,私が長く刑事裁判を担当した立場から申し上げますと,今の刑事裁判には非常に問題があると思います。一番問題なのは,私は刑事裁判官の有罪慣れだということを常に申しております。常に我々が担当している事件の9割以上は有罪判決であります。それを支えているのは,捜査官が作った膨大な供述調書で,それの相関関係と言うんでしょうか,それに長年慣れてしまうと,本来の無罪の推定,起訴状一本主義,予断を持たないという裁判官の立場がだんだん崩れてくる。私を含めて,ベテランになればなるほど,ほとんどの事件は有罪なんだから,この事件はやっていないと言っても,またうそを言っているんじゃないかと,こういうような目で見る危険が非常に強い。

それをバックアップするのが,捜査官の供述調書ですね。
それを今まで裁判官は,読み込むと言いますか,家へ帰って膨大な供述調書を読み比べて,その中に少しでも矛盾があれば,どこかおかしいんではないかというふうな疑問を持つというところから考えだすということで今までやってきたんですけれども,それではだんだん目が曇ってくるんですね。9割以上の有罪判決,間違いのない供述調書をずっと読み込んでおりますと,その矛盾点を発見するのも,目が曇ってできなくなってくる。そうすると冤罪を生むと,こういうことになってくるわけです。

やはり日本の将来の刑事裁判というのは,供述調書を使わないということを原則にして,しかも,新鮮な風を吹き込まないといけないと。いつも刑事裁判の有罪ばかり担当している裁判官が,そのまま事件を担当すると危ない状態になる。裁判員が6人,1件だけの事件で立ち会うということは,非常に新鮮な意見,いろいろな角度からの意見が出てくると。それを聞くと裁判官も,なるほどそういう見方もあるのかということで,本来の立場に戻れるのではないか。そういう意味で,3人のプロの裁判官と,6人の素人裁判官が一緒に考えるということは,非常にいい制度だというふうに思います。

こういった裁判員制度を前提にすると,法廷が真剣勝負の場になります。今までは,我々は家に帰って読むのが真剣勝負です。家に帰って読むなんてことは,裁判員制度では予定されておりません。法廷がすべて真剣勝負ということになります。これは劇的な変化です。
検事も弁護士も裁判官も,法廷は眠たいなと感じることが結構あります。速記の皆さんもそうでしょう。だらだらとやって聞いているけど,そこで勝負を決めるんじゃなくて,家へ帰って,それと供述調書とを読み比べたりしながら考えるというのが,今の刑事裁判の実態だったわけですから,法廷が非常に緊張した場面になる。

更にもう一つポイントとしては,普通の仕事を持っている裁判員の人に,それほど長く付き合ってもらうわけにいかない,迅速性の問題ですね。早く結論を出せるようなシステムを考えなければならない。そのためには記録の正確性と迅速性,これが非常に大事になってきます。
法廷での記録とその正確性,迅速性ですね。それについて,最近注目すべき事件に出会いました。

これは,12月14日付けの松山の新聞ですが,東京地裁で3日間の模擬裁判をやったそうです。裁判員がいるという前提で,実際には裁判官だけでやったようですが,裁判員をどうやって説得するかということを,検事と弁護士と裁判官が協力し合って考えて模擬裁判をした。そこでは,一通も捜査段階の供述調書は使われなかった。

今日の関係で私が注目したのは,こういう場面です。内容を記録した書面は,すぐにはできないため,裁判官自ら懸命にメモを取った。法廷が勝負ですから,法廷の記録を正確に残さないといけない。しかし,そのときは速記録がなかったんでしょうね。そのために裁判官が必死になってメモを取ったということを記者が見ています。

これはしかし,本来いけない,つまり法廷で証人の証言を聞くべきところを,書くほうに精力を注いだ。そういうことは,本来の裁判員制度では予定されておりません。正確性と迅速性をどうやって両立させるかという点について,いろいろな考えがあると思います。

私は,速記録がやはり必要だと,裁判官の立場からそう考えます。なぜかと言いますと,一番必要なのは評議の場面ですね。先ほどフュージョン(Stentura Fusion 米国製速記タイプ:速記録や速記符号から検索して録音が再生できる機能がある)で,ある部分を再生してくださいと裁判官が言って,それを再生すると。ちょっともたつきましたけれども,そういう場面はほとんどありません。つまり,先ほども例があったようですが,審理の途中でさっきこう言ったじゃないですかということを突きとめるために,直前に言った言葉を再生してもらう。それはあるかもしれませんが,そんなに数多いことではありません。

一番多いのは,評議であの場面でこの証人はどう言ったじゃないかということを,特定して再現したいという場合ですね。
ここには書記官も速記官も,原則入りません。もちろん必要な場合に録音録画を再生してくれ,あるいは速記を再生してくれということを,必要な場面で呼ぶということはあると思いますが,原則評議室は密室でありまして,裁判員以外だれも入りません。

ところで,記録の正確性という場合には,一番正確なのは,録音録画ということであることは間違いないと思います。ただ,録音録画が正確なのは,例えば言葉自体,それから更に所作,動作,表情,これも残るわけですね。ですから,正確さという意味では録音録画が一番間違いないだろうということは,多分争いがないだろうと思います。記憶の薄れとか,あいまいさとか,それから人によって,裁判員と裁判官が9人おりますと,それぞれ関心を持って聞く方向が違うものですから,思い込みで聞き違う。こういうはずだという頭で聞くと,そう聞こえてくるというので誤解が生じ得るんですが,そういう場合も録音録画の再生で再現できるでしょうし,小声であったり,微妙な表現をわざと使ったり,あるいは方言というふうなものも録画の再生で十分正確に再現できると思います。

しかし,私が問題にしたいのは評議の円滑性です。その都度,速記官を呼んで,あるいは書記官を呼んで,録画を再生させるのか。私が模擬裁判を担当した場面でも,何回かやっぱり証人なり被告人の証言を再現したいという場面がありました。

そのときは,もちろん速記が入っておりません。録画の再生です。現在の録画の再生は,書記官が大体この辺りだということを覚えておって,ばばっと検索する。将来の最高裁が考えているものは,今のフュージョンのように,言葉を入れればそこが出るというふうな検索機能が付けられるのだと思いますけれども,それにしても議論,思考が中断されます。

我々が今まである速記録を見るのは,録画のようにざあっと見るんじゃないんですね。山,谷,川,平野,それらを意識しながら,この証人のこの山の証言というのは,一瞬にして文字情報の場合は見れます。
評議までに速記録が出ておれば,我々が見れば,もうあっという瞬間に,必要な場面が取り出せます。それに対して録画の場合は,ちょっと待ってください,検索文字を入れて,再生して,ちょっと違っている場所でしたと。

更に問題なのは,2つの証言を対比したい場合,主尋問と反対尋問で違うことを言っているとか,この証人と同じ場面で他の証人が違うことを言った,それを両方対比したい。我々は,今までですと,速記録を上下させて,ぱっと引き出して見るわけですけれども,それを録画でやろうとすると,またちょっと厄介なことになります。

それほどものすごい時間が掛かるというわけではありませんけれども,議論と思考が中断され,だらっとしてしまう評議になってしまうという危険性は,非常に強いんではないかと。文字情報の瞬時性というのはものすごいものです。やはり私は,そういう側面から見ると,正確性では録画が優れているけれども,迅速性という面では非常に問題が大きいと考えます。

最高裁のほうは,最初は音声での自動反訳を考えていましたが,どうもそれはうまくいかないということで,現在はフュージョンに似たような,言葉で録画画面を検索するような方式に切り替えようとしていますが,やはりそれでは不十分で,文字情報の正確なものを評議の場に提供してもらわないと,円滑な評議ができないというのが私の考え方であります。
皆さん御存じのとおり,諸外国の法廷では,速記がまだまだ十分な機能を発揮しております。アメリカでは,21世紀法廷ということで,全過程の録画ということで対処したら,高裁のほうから全部見なきゃいけないから,たまらないからやめてくれというようなことで,やめたという話も聞いたことがあります。とんでもない時間が掛かるんですね。

文字情報の目で読む瞬時性というものは,全く失われてしまう。そういう意味で,速記と録画とを併用するというのが裁判員制度にとっては必要だと。
つまり速記録も正確性においては100パーセントではない。雑談ですけど,先日宇和島というところに行きましたら,昔の大津事件の児島惟謙という大審院裁判長の方があそこの出身ですが,「児島惟謙(いけん)と言ったらいけん。」と地元の人に言われました。

どこでもそういう方言があると思うんですが,「いけん」というのは,「いけない」ということに通じるので,「児島惟謙(これただ)」という正式な名前を言ってくださいと怒られたんですけれども。例えば,憲法訴訟で「イケン」と言うと,どっちの「イケン」なんだ,いけないと彼は言っているのか,憲法違反だと言っているのか。例えば「違憲です」と言えば憲法違反のほうになりますよね。
その「です」を言ったかどうかは,速記のほうではっきり出るかというと,それは録画を見ましょう。こういう微妙なところを最終的に確認するんであれば,録画は残しておかなければならないし,評議には速記録が必要なんだと,私はこういうふうに,今個人的には確信しておるしだいです。

こういう意味では,今の速記官制度を,こう言うと皆さんに怒られるかもしれませんが,裁判員に限定して,その部分で養成を再開すると。裁判員裁判というのは広がっていくでしょうから,そういうものについて速記がちゃんと対応できる。そういう迅速性を要する裁判というのは,ほかにも多分あるんだと思いますが,裁判員裁判が最も厳しいですよね。
ほかの裁判については録音反訳で対応するという考えも,私はあり得るというふうに考えております。裁判官の立場ばかりから申し上げて,どうも失礼いたしました。(「はやとくんフォーラム2007」での安原浩元所長の講演録)

リンク: 裁判所速記官制度を守る会.
リンク: 日本裁判官ネットワーク.

7/4東京新聞:裁判員「メモなし」で本当に大丈夫? :社会(TOKYO Web)

7/4の東京新聞の記事です。

リンク: 東京新聞:裁判員「メモなし」で本当に大丈夫? :社会(TOKYO Web).

 「メモを取らないでください」。裁判員裁判の法廷では、裁判長がそんな注意を裁判員に促すことになりそうだ。「見て聞いて分かる裁判」のはずだからメモは不要というのがその理由。裁判官と裁判員が評議の場で被告や証人らの発言内容を確かめる手段も収録映像に限られ、文字情報は提供されないという。「あいまいな記憶だけでは、公正な判断はできない。正確に記録した文字情報が不可欠だ」との声が弁護士から出ている。

 最高裁によると、全国で行った模擬裁判を検証したところ、裁判員が法廷でメモを取ることについて消極的な裁判官が大半を占めた。理由は、(1)目の前のやりとりに気が回らなくなる恐れがある(2)やりとりを忘れても評議の際に映像で確認できる-だった。

 法廷には、カメラとマイクで発言内容とその様子を録音・録画する音声認識システムが設置される。キーワードや発言者を入力して検索すると、知りたい発言部分が映像と文字で再生できる。

 これに対し、埼玉や大阪などの弁護士会は速記録の活用を求めている。埼玉弁護士会は五月、評議での音声認識システムの映像の利用について「正確な証言を必要に応じて確認しながら行うことは困難」と会長声明で指摘した。

 速記官による記録は、文字の誤変換トラブルが起きる音声認識システムとは違って正確で、書面なら証人の発言内容を比較検討しやすいなどの利点がある。今では、キーを打ち込むと即座に日本語の文字に変換される電子速記装置が普及。関東の女性速記官は「審理終了と同時に裁判員に速記録を手渡すことは技術的に可能」と話す。

 聴覚障害者からも速記録を求める声がある。手話ができる人は全体の一割程度しかいないからだ。全日本ろうあ連盟の西滝憲彦理事は「情報が保障されるよう一人一人のニーズに合った支援策を求めている。速記録や要約筆記など文字による情報伝達もその一つだ」とする。

(中日新聞)

次の落合弁護士のブログのコメントも必見です。
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20090705

6/14読売新聞 裁判員裁判で速記録を

Photo 6月14日読売新聞(大阪版)の記事です。

裁判員裁判もいよいよ本当に始まりそうですが,始まればこんな声がもっと強くなるだろうと予想しています。

速記官たちは,速記すると自動的に文字に変換するシステム「はやとくん」で,即日に速記録を作成することができます。

私のいる地裁でも,この何年か,速記官たちは,刑事事件は原則,即日か翌日に速記録を提出してきました。

裁判員裁判が始まっても,普通に速記録を使ってくれればよいのですが,裁判員裁判では音声システムを使うそうなので,控訴審まで速記録は塩漬けになりそうで心配です。

本当は,速記録をリアルタイムで画面で読めて,メモやマークもできる受信はやとくんを使ってみてほしいですが,無理ならせめて速記録だけでも裁判員裁判で活用してほしいです。

聴覚障害者の裁判員に対する情報保障の要望書(全難聴)の中身

全難聴が最高裁などに提出した要望書がこちらのHPに掲載されました。

リンク: 社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会.

聴覚障害者の裁判員に対する情報保障の要望書
http://www.zennancho.or.jp/info/090304youbosyo.pdf

それによると、選択肢として電子速記も要望されています。

裁判員制度に関する手話を使わない聴覚障害者の情報保障の要望について

1 中途失聴・難聴者は裁判員の候補者として呼び出しを受け、選任のための面接の時から情報保障が必要となります。事前質問票に要約筆記・補聴器+補聴支援システム・手話通訳・電子速記などの希望を記入する欄を設け、本人が選択できるようにして下さい。
2 裁判員裁判を行う裁判所は、上記希望する情報保障を用意してください。
3 手話使用模擬裁判と同じく,文字による情報保障を必要とする中途失聴・難聴者を裁判員とする模擬裁判を行ってください。

以前、うちのブログで御紹介した朝日新聞の記事(http://kimi-koni.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/asahicom---972d.html)には、「電子速記」の文字がありませんでした。
とはいえ、全難聴の要望書を一番に記事にしたのは朝日だったので、記事にしてくれただけよかったのですが。

続く毎日新聞の記事(http://kimi-koni.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/yomiuri-online-.html )も、なぜか要約筆記だけに焦点が当たり「電子速記」の文字がありません。

速記官にとっても仕事に一層やりがいを持てることにつながるので、全難聴の要望どおり「電子速記」も選択肢に入るとよいのですが。

聴覚障害者、不安募る 手話使用は18%のみ 模擬裁判、他手段用いず - 毎日jp(毎日新聞)

裁判所の聴覚障害者向けに行う模擬裁判が、手話でしか行わず、要約筆記や他手段を用いないことが問題となっています。

裁判所速記官は、10年も前から、手話を理解しない聴覚障害者や耳の遠いお年寄りの情報保障にも「はやとくん」による字幕が役立ちますよと、最高裁にずっと言い続けてきました。

模擬裁判も、始まった当初から、速記官も参加させてほしいと最高裁にずっと言い続けてきました。

速記官を情報保障の手段に用いた模擬裁判も、とうとう実現することなく終わりそうです。(弁護士会主催の模擬裁判では何度か試していただきましたが)

要約筆記だけではなく、裁判所には速記官がいるのだから、リアルタイム速記「はやとくん」による情報保障もぜひ試していただきたいものです。

リンク: 聴覚障害者、不安募る 手話使用は18%のみ 模擬裁判、他手段用いず - 毎日jp(毎日新聞).

◇迫る裁判員制度

 2カ月後に始まる裁判員制度を巡り「手話ができない難聴者や中途失聴者への対応が不十分」と、関係者から不安の声が上がっている。聴覚障害者を交えた模擬裁判では手話が用いられ、難聴者らが主に頼る要約筆記などを試行した例がないからだ。全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴)は今月、最高裁や日本弁護士連合会などに要望書を提出し、難聴・中途失聴者を裁判員とする模擬裁判や、要約筆記者の研修などを求めている。【蒔田備憲】

 厚生労働省の「06年身体障害児・者実態調査」によると、聴覚障害者のコミュニケーション手段(複数回答)は、手話18・9%に対し、補聴器や人工内耳などが69・2%、筆談や会話の内容をメモやパソコンでまとめて伝える要約筆記が30・2%。先天的な聴覚障害は両親やろう学校の友人、先輩などを通して手話を習得する機会があるが、難聴者や中途失聴者は手話以外のコミュニケーション手段に頼る割合が高い。

 模擬裁判ではこれまでに、東京▽横浜▽和歌山▽山口の4地裁が聴覚障害者を裁判員役に選んで実施。京都地裁では聴覚障害者が「候補者」となったが、いずれのケースも普段から手話を用いていたため、各地裁は手話通訳者を介して審理や手続きをした。

 一方、難聴者を交えたり、要約筆記を導入したりした模擬裁判は一度も実施されていない。最高裁が今年1月に公表した報告書も、手話を使う聴覚障害者には触れているが、要約筆記や筆談についての記述はない。

 全難聴は「これでは安心して参加できない」と、制度開始前の模擬裁判実施を要望。最高裁は「要約筆記は適切な方法を検討中。難聴者のため、関係者にゆっくり、はっきり話すよう呼び掛ける」とするが、円滑な参加には不安が残っている。

◇経験が必要だ--聴覚障害のある田門浩弁護士(東京弁護士会)の話

 要約筆記は、手話通訳より時間がかかる。補聴器使用者が選ばれた場合、周囲が同時発言を避けたり、発言の際にきちんとマイクに向かったりするなど、配慮が必要になる。想定外の事態が起こる心配もあり、模擬裁判の経験が必要だ。

手話通訳による模擬裁判でも、こんな声が聞こえたそうです。

リンク: 聴覚障害者ら50人 裁判員に備え、手話法廷 : 神奈川 : 地域 : YOMIURI ONLINE(読売新聞).

「手話通訳だけでなく、パソコンによる同時通訳など、もっと“情報保障”が必要」と指摘した。

(2009年3月21日 読売新聞)

asahi.com(朝日新聞社):裁判員制度向け「文字情報充実を」 難聴者団体が要望書 - 裁判員制度

朝日新聞に、次のような記事が掲載されています。(東京・名古屋版)

リンク: asahi.com(朝日新聞社):裁判員制度向け「文字情報充実を」 難聴者団体が要望書 - 裁判員制度.

 手話だけではなく、要約筆記など文字による情報も――。裁判員制度の開始を前に、全国の難聴者らでつくる「全日本難聴者・中途失聴者団体連合会」(東京都新宿区)の代表が4日、最高裁を訪れて要望書を出した。手話を使わない聴覚障害者が裁判員に選ばれたときのきめ細かい配慮を求めている。

 聴覚障害者は全国約600万人といわれる。厚生労働省が06年に実施した調査では、そのコミュニケーション手段は、補聴機器が69%、筆談・要約筆記が30%、手話が19%。病気や加齢、事故などで聞こえなくなった人の多くは手話は使わない。同連合会の川井節夫副理事長は「裁判の経過をしっかりつかめるかどうか心配がある」と話した。

 要望書は、こうした実情を説明したうえで(1)裁判所から呼び出しを受けた裁判員候補者が要約筆記や補聴器、手話通訳などコミュニケーションの手段を選べるようにしてほしい(2)中途失聴者や難聴者を裁判員とする模擬裁判を実施してほしい(3)要約筆記者らを研修してほしい――とした。

 各地の裁判所では、手話通訳者が加わった模擬裁判は行われてきたが、要約筆記者による模擬裁判は行われていない。最高裁は「実際の裁判では手話通訳者と要約筆記者は確保する。審理や評議のスピードも、それに合わせる。遠慮なく各地裁に問い合わせてほしい」としている。(岩田清隆)

速記官なら、スピードダウンや研修も必要ないので、聴覚障害者の方に安心して参加してもらえるように、法廷の「文字情報充実」に、速記官も利用してもらえるようにできればよいのですが。

要約筆記を利用した模擬裁判が開かれてないとのことですが、速記官と「はやとくん」を利用した模擬裁判も開かれていません。
速記官たちもずっと要望してきたのですが、開かれることなく本番を迎えそうです。

なぜ裁判員法廷にビデオ?

 最高裁は,音声認識システムによる記録作成には失敗したので,ビデオ+音声認識システム(よくて8割にしか達しない認識率なのでインデックスに利用)を裁判員法廷に設置する作業を現在進めています。

 しかし,ビデオ記録は使い勝手が悪く不評なので,米国では速記がまだ大活躍ですし,日本でも控訴審には紙の記録で上がります(高裁裁判官も紙の記録を好んでいるので)。
 
 米国より30年遅れている話で,使い勝手が悪く失敗したのが分かっているビデオを,最高裁がなぜわざわざ裁判員法廷に採用するのか理解に苦しみます。

 米国のように公平に競わせてくれれば、速記官のほうが便利で役立つことが分かってもらえると思うのですが。

 下のは,数年前のリーフレットの記事からです。

機械速記vsビデオ・・・・速記が勝利(米国)

 カリフォルニア州では,1986年に州法を改正し,ビデオによる供述録取に予算措置を講じ、実験を開始しました。ロサンジェルス郡上位裁判所(日本の地家裁に相当)でも4法廷にビデオ装置を設置しました。質問者,証人,裁判官を別カメラで写し,発言ごとに画面を切り替えるものです。書証提示の時刻をインデックスとして付するサービスも操作担当の事務官が行いました。 しかし,コンピューター反訳をする速記官に対抗することができず,1994年1月1日をもって実験を終了しました。(法律名はCalifornia Code of civil procedure)
 ロス郡上位裁判所でも,4法廷のうち3法廷のビデオ装置を撤去し,今は1法廷に残るのみです。機械自体はすぐれていましたが,速記官がそれを上回りました。その後も,速記官による法廷記録は発展を続け,1993年立法により,当事者は,速記官がコンピューター反訳をしている場合は,そのフロッピー(computer readable form)の交付申請ができるとされました。弁護士の利用の便宜と省スペースを考えてのことです。
 シンプソン裁判では,当事者席のモニターにリアルタイムの文字表示をしたことが有名です。コートルーム23などのハイテク法廷でも,速記のリアルタイム・コートリポーティングは活躍しています。

「1.pdf」をダウンロード

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asahi.com:(7) 裁判員制度を前に-マイタウン岐阜

リンク: asahi.com:(7) 裁判員制度を前に-マイタウン岐阜.

1か月ちょっと前の古い記事ですが、「メモだけでは不安」という、模擬裁判で裁判員を体験された方の声を御紹介しますね。
「速記録」が手元にあれば、導き出した結論にもっと自信を持てたのではないかと思います。

結論に自信が持てれば、後で思い悩んだりすることもなく、裁判員をやってよかったという達成感も得られやすいのではないかと思います。

裁判員制度を前に-マイタウン岐阜

 犯人の利き足は、事件の核心とは関係ないはずだった。犯人が足のどの部分で被害者を踏んだかも。しかしある裁判員は最後までこだわった。「犯人の利き足と現場に残った足跡は逆」。物的証拠への論点はずれたまま、評決の時間は迫っていた。

 11月、岐阜地裁で開かれた模擬裁判に補充裁判員として参加した。自ら応募して選ばれた裁判員たちの真剣な議論の一部始終を間近で取材して痛感したのは、裁判の迅速化への不安だった。

 扱ったのは架空の傷害致死事件。被害者は何者かに腹を踏まれて死亡しており、着ていたTシャツにはサンダルの左足つま先部分の跡がついていた。跡は被告のサンダルの形に似ている、というのが検察側の主張だった。 弁護人はこう反論した。跡はサンダルと合わせると数ミリずれる。被告のサンダルとは別の形のものかもしれない。

 結論は異なるが、両者とも「どちらの足で何回踏みつけたかは関係ない。偶然残った跡が、被告のサンダルと似ているかどうか」という導き方をしている。裁判官もみな、同じ論理をたどった。

 ところが裁判員は違った。「被告は右利きだが、踏みつけられた被害者のTシャツには左足の跡が残る」「踏みつけるならかかとの跡が残るのでは」「いや、被害者が横を向いて寝ていれば、つま先でけることができる」。半数の裁判員が「Tシャツに残った跡は被告の踏み方と関係する」とこだわり、議論に多くの時間を割いた。

 自分も不安だった。法廷で見聞きした内容は基本的に記憶と手書きのメモにしか残らない。法律の手続きに関することは裁判官が判断するが、「足跡の鑑定」といった証拠の判断は裁判員に任される。

 裁判員は自宅でも昼間の審理を思い出し、悩んでいた。しかし記憶があやふやでも、資料は自宅に持ち帰れず、確認のしようがない。「メモだけでは不安」「専門用語が多い」という声も多く出た。

 評議開始の直前、田辺三保子裁判長はこう話した。「私も日常生活では子どものけんかの仲裁で、両方の意見を聞いてどちらが正しいか判断します。それと一緒ですよ」 もちろん裁判員の緊張をほぐすための言葉だ。しかし、何日も裁判が続く難しい事件で、素人の我々に職業裁判官がしてきた以上の正確な判断ができるだろうか。

 4日間に及ぶ審理と評議を終え、評決の直前、自分のメモを見返して自問した。「果たして思いこみを残すことなく、結論を導けているだろうか」。自信は持てなかった。(大内奏)

「メモ取らず審理集中を」=裁判員へ呼び掛け-意識分散を懸念・最高裁

リンク: 「メモ取らず審理集中を」=裁判員へ呼び掛け-意識分散を懸念・最高裁.

速記官は,裁判員をメモ書きから解放して審理に集中できるように,速記録を使ってくださいと,これまでずっと最高裁にお願いしてきました。

裁判官と裁判員がメモ書きに忙殺されているのを,最高裁がやっと問題と感じてくれたのはよかったですが,速記録を使うのではなく,録画が再生できるからメモを取るなと言い出したようです。

速記でも,音声認識でも,ほとんど正確に文字化された記録を,裁判員に配った上でならよいですが,録画の再生だけでは,だれのいつのどんな発言を再生してほしいのか,キーワードを思い出すのも、正確な箇所を伝えるだけでも困難です。
まさか,全部をもう一度初めから再生することはないでしょうし,録画ではメモの代わりにはなりません。

記録なしでは絶対無理と思われる長期審理も,記憶保持のためのポイントおさらい会だけで乗り切る決意のようです。

また,裁判官は,メモを取らなくても分かるような審理を行わなければならないようです。

分かりやすく質問しようとして,少しでも難しい言葉は解説付きで質問をする裁判官がいますが,一つの質問が長くなり,情報量が増えて,余計に理解が難しくなり,「もう一度質問してください。」と言われてしまうこともあります。
また、裁判官の頑張りだけでは、どうにもならないことが多々あるのが法廷です。

みんながメモのために余計な気を遣ったり,大げさに禁止したり,されたりしないために,速記録を使ってくださ~い。

できれば,裁判所のノートパソコンを裁判員に貸与し,「レシーブはやとくん」で,速記録を参照しながら,大事だと思ったところにマークしたり,メモを入力したり,という使い方をすれば,データ流出の危険もありません。(参照:レシーブはやとくんの説明 「はやとくん通信」2ページ http://kimi-koni.cocolog-nifty.com/blog/files/hayatokun-newsletter43.pdf)

http://news.toremaga.com/nation/nnews/176272.html
「メモ取らず審理集中を」=裁判員へ呼び掛け-意識分散を懸念・最高裁
2009年01月25日

 5月から始まる裁判員制度で、最高裁は25日までに、証拠調べの内容をメモに取らずに審理に集中するよう、裁判員へ呼び掛ける必要があるとした報告書を取りまとめた。メモに集中するあまり、法廷でのやりとりに意識が向かわず、心証形成がおろそかになる事態を避ける狙い。全国の裁判官の参考資料として使われる。

 裁判員が法廷でメモを取ることは自由だが、最高裁は有罪、無罪や量刑を決める評議の場では、法廷で撮影した録画を再生することで、裁判員の記憶を補うことにしている。

 報告書は、これまでに全国で行われた模擬裁判で、裁判員役がメモに集中している姿が多く見られたと指摘。裁判官3人と裁判員6人の全員が下を向いてメモを取っていた事例も挙げ、「『目で見て耳で聞く審理』の裁判員裁判では、正常な事態とはいえない」とした。

 このため、裁判官が裁判員に対して、「メモを取らなくても分かるような審理が行われるし、完全に覚えられなくても録画で確認できる」と事前に説明した上で、できる限り目の前の証拠調べへの集中を促すべきだとした。 

 また、裁判員が取ったメモや配布された資料については、事件関係者のプライバシー情報などが含まれる可能性があり、紛失により流出する恐れを指摘し、「持ち帰りについては慎重になるべきだ」との見解を示した。

 その上で、長期審理が必要な事件では、証言のポイントを確認する意見交換を合間に行うなど、記憶保持のための工夫を求めた。(了)

[時事通信社]

裁判員評議に速記録を=法廷証言、文書化求める声-最高裁は録画利用方針

Usi2 皆様、明けましておめでとうございます。今年も本ブログをよろしくお願い申し上げます。

年明け早々うれしい記事を見つけました。

リンク: 裁判員評議に速記録を=法廷証言、文書化求める声-最高裁は録画利用方針.

(注:記事が、時事通信社のサイトにも、リンクしている「とれまがニュース」からも早々に消されてしまったようで、こちらのキャッシュの記事が残っているだけになりました。)

http://72.14.235.132/search?q=cache:cN8_uVF34bYJ:http://news.toremaga.com/nation/nnews/172712.html+%BB%FE%BB%F6%C4%CC%BF%AE%20%BA%DB%C8%BD%B0%F7%20%C2%AE%B5%AD%B4%B1&ie=euc-jp

裁判員評議に速記録を=法廷証言、文書化求める声?最高裁は録画利用方針
2008年12月30日

 来年5月から始まる裁判員制度で、裁判員は審理の直後に裁判官とともに評議を行い、判決内容を決めることになる。法廷での証言内容を評議で確認するため、最高裁はDVD録画と音声認識ソフトを組み合わせた新開発の映像検索システムを使う考えだが、弁護士らからは速記録の利用を求める声が上がっている。

 最高裁は1998年、人材確保の問題などから速記官の新規養成を停止し、速記官はその後3分の1以下に減った。公判記録の多くは外部委託で録音データから作成しているが、この方法では完成まで数日かかり、裁判員裁判には使えない。

 最高裁は「『目で見て、耳で聞く審理』の裁判員裁判に、文字記録は不要」との立場で、新システムで発言の約8割を正しく変換することができ、録画検索としての実用性は十分とする。

 しかし、標準語にしか対応していないなど弱点もある。関西弁を認識できるよう改良中だが、別の方言や、小声や感情的な発言では、誤変換が増えるとみられる。評議の中で裁判官が端末を操作するため、裁判員が自由に確認できない問題もある。

 東京地裁のある速記官によると、この数年で速記のシステムも急速に進歩し、ほぼリアルタイムの文字化が可能となった。誤変換も直後に修正し、紙データとともに、検索が容易な電子データも評議に提供できるという。

 証拠調べ後、その場で最終弁論を作ることもある弁護士にも、速記を求める声は強い。日弁連は速記官の養成再開を最高裁に求め続けており、大分県弁護士会は今月、裁判員裁判で速記録を使うよう声明を出した。全国の速記官らが行ったアンケートでは、連日開廷時の記録として、弁護士の8割以上が速記録を望んだ。

日弁連裁判員制度実施本部委員の浜田広道弁護士は「録画で証言内容を確認するには実際と同じ時間を要するが、文字情報なら目を走らせれば瞬時に確認できるなど、一覧性が決定的に違う。正確な情報に基づく評議には、裁判員が自由に閲覧できる速記録が不可欠だ」と指摘している。(了) [時事通信社]

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